報告書

自治体訴訟法務の現状と課題

自治体訴訟法務の現状と課題


A4判 250p

完売いたしました

 

情報公開制度の浸透、平成12年の地方分権改革、平成16年の司法制度改革などを経て、自治体をとりまく法的・政治的環境は大きく変化しました。これらの変化により、今後、自治体に関する訴訟が増加することはあっても、減少することはおよそ考えにくいと考えられます。したがって、「法律による行政の原理」を実現する観点から、自治体はこれらの訴訟に適切に対応するための組織体制を整備し、訴訟対応機能・違法行為予防機能を拡充することが求められます。

本報告書では、自治体の訟務管理や現行の訴訟制度の問題点などについて検討を行い、その成果を取りまとめました。

自治体訴訟法務とは、一般的に、訴訟手続・執行手続・和解交渉など、訴訟が生じた場合に 対応する活動をいいます。しかし、自治体はこれに加えて、違法な事務執行の予防、事件・事故の再発防止など、法的紛争に関する事前対応・事後対応を適切に行う必要があります。

自治体は現在、自治体訴訟の量的変化と質的変化に対応することが求められています。量的変化とは、自治体訴訟の件数がここ10年ほどで約1.7倍に増加していることを指します。質的変化とは、(1)地方分権改革、(2)司法制度改革、(3)情報公開制度の浸透と「住民自治の争訟化」です。

自治体訴訟をめぐる近年の質的・量的な変化に自治体が適切に対応するためには、訴訟法務に関する自治体職員の意識改革が何よりも重要です。第1に、「訴訟は非日常的な業務で、弁護士の仕事である」という意識を変え、職員自身が当事者意識をもって対応すること、第2に、訴訟は事後処理であるという意識を変え、事前対応を改善すること、第3に、勝訴することだけを目指すという意識を変え、裁判過程を通じて行政の説明責任の確保を図ることがポイントです 。

自治体は、訴訟対応機能の充実を図る観点から、法的問題に関する照会ルートの整備、原課からの適切な情報収集、OJTを通じた能力開発、自治体間の訴訟情報の共有などを図る必要があります。

自治体は、訴訟を弁護士に丸投げするのではなく、職員と弁護士が共同でこれに当たることが重要です。また、行政訴訟に明るい弁護士、行政側の実情を理解してくれる弁護士などを確保することも求められます。

首長は、政策判断に当たっては、その必要性や財源のみならず、法的リスクについても十分に検討する必要があります。自治体が訴えの提起、和解、斡旋、調停および仲裁を行うには、議決が必要ですから、議会への適切な説明が求められます。

第1部 自治体訴訟法務に関する提言

(執筆:(財)日本都市センター)
第1章 総論
第1節 自治体訴訟法務とは何か
第2節 なぜ、いま自治体訴訟法務か
第3節 新しい自治体訴訟法務の視点

第2章 訴訟法務マネジメント
第1節 訴訟法務のマネジメント・サイクル
第2節 庁内の訟務体制
第3節 弁護士
第4節 首長

第3章 訴訟類型ごとの現状と課題
第1節 自治体が被告となる訴訟
第2節 自治体が原告となる訴訟

第2部 自治体訴訟の諸問題

[総論]
第1章 自治体訴訟法務の課題
(執筆:弁護士 石津 廣司)

第2章 自治体における訴訟管理
(執筆:東京大学大学院法学政治学研究科教授 金井利之)

[各論]
第3章 情報公開訴訟と個人情報保護訴訟
(執筆:東京大学大学院法学政治学研究科教授 宇賀 克也)

第4章 改正行政訴訟法における当事者訴訟の活用について
(執筆:神戸大学大学院法学研究科教授 中川 丈久)

第5章 自治体に対する損害賠償請求の現状と課題について
(執筆:自治体法務研究所代表・市町村アカデミー客員教授 江原 勲)

第6章 住民監査請求の実務
(執筆:市川市教育委員会教育次長 大塚 康男)

[事例]
第7章 岡山市地方交付税過大受給損害賠償請求住民訴訟判決について
(執筆:岡山市総務局総務法制課政策法務室主査 宇那木 正寛)

第8章 横浜市勝馬投票券発売税に関する国地方係争処理委員会勧告について
(執筆:横浜市行政運営調整局部次長 中山 雅仁 他)

第3部 事例研究

(執筆:(財)日本都市センター研究員 鈴木潔)
1.訴訟法務と組織体制
2.横浜市保育園民営化訴訟における訴訟対応
3.市川市真間山マンション訴訟等における訴訟対応
4.高松市食肉センター訴訟における訴訟対応
5.八戸市の損害賠償請求における対応
6.日田市サテライト訴訟における訴訟対応
7.国立市マンション訴訟における訴訟対応

 

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