都市自治体行政の法的整合性確保に関する調査研究2008
都市自治体行政の法的整合性確保に関する調査研究
1.趣旨・目的
財団法人日本都市センターでは、平成20年度と平成21年度の2か年にわたる自主調査研究として「都市自治体の法的整合性の確保に関する調査研究」を実施している。
第一次地方分権改革によって自治体の自主立法権と自主解釈権が拡大されたことを背景に、平成12年前後から自治体政策法務に関する理論と実践が注目を集めてきた。自治体政策法務論では、自治体は地域における自立的・自律的な政策主体として位置付けられ、自治体が自主立法や自主解釈を駆使して地域の実情に即した政策を企画立案する局面に大きな関心が寄せられた。実際、自治基本条例や路上喫煙防止条例を制定する自治体が稀ではなくなってきたことに鑑みれば、自治体政策法務の問題意識や取組みは一定程度定着してきたといえる。
他方において、近年では、自治体と法をめぐる別の論点として、自治体のコンプライアンスや不適切な事務執行の問題が注目されている。例えば、長や職員の汚職事件、飲酒運転、不明朗な会計処理といった不祥事や、建設行政における談合、税務行政における滞納の放置、生活保護行政における不正受給や申請拒否などである。これらの問題は、いわば法規範と現実が乖離したことによって生じた問題といえる。乖離の原因は様々であるが、法規範と現実の整合性の態様を考察するために「法的整合性」という概念を新しく用いることとした。本調査研究では、「法的整合性」を確保するための概念や手法を問題の局面ごとに検討する。
なお、後記『法的整合性確保に向けての多面的検討』に収められた宇賀克也東京大学大学院法学政治学研究科教授による「総論」によれば、「法的整合性」論の射程について、
① 単に既存の法令の遵守をいかに確保するかにとどまらず、あるべき行為規範の法定化も「法的整合性」の議論に含まれること
② 行ってはならないことが行われないようにすること(違法または不当な作為の抑止)のみならず、行われるべきことが行われないことがないようにすること(違法または不当な不作為の抑止)」も重視すべきこと が指摘されている。
この2つは、従来のコンプライアンスや法令遵守に関する議論では十分に扱われてこなかった視点であり、本調査研究の新規性と独自性が端的に指摘されているものといえる。
2.調査研究の方法
本調査研究では、自治体において法的整合性が問題となる状況や法的整合性確保のための手段等について検討を行ってきた。調査研究を進めるにあたっては、当センター内に「法的整合性研究会」(座長 宇賀克也 東京大学大学院法学政治学研究科教授)を設置した。
なお、本研究は2期に分けて実施しており、第1期(平成20年4月~12月)では、できるだけ多くの論点を幅広く取り上げて多面的に考察を行い、第2期(平成20年10月~平成21年9月)では重点課題を集中的に分析することとしている。
本調査研究の成果物として、第1期の研究会における意見交換、有識者及び関係機関からの意見聴取や寄稿、関係機関へのヒアリング等に基づき、平成21年3月に『法的整合性確保に向けての多面的検討』を刊行した。同書は研究会委員、寄稿者、当センター研究員の分担執筆により作成されたものである。
3.調査研究の概要
(1)調査項目 第1期調査研究は、第1部「法的整合性が問われる局面」、第2部「法的整合性確保の手段」、第3部「法的整合性確保の取組み」に区分して検討が進められた。
第1部「法的整合性が問われる局面」では、自治体における不祥事や法的トラブルが発生して大きな問題となっている論点を検討した。
①職員の汚職・不正行為の発生
②債権管理のあり方
③情報管理のあり方
④入札・契約行政のあり方
⑤給付行政のあり方
第2部「法的整合性確保の手段」では、法的整合性の確保に関する現行の法的手段について考察した。
①情報公開による統制
②監査による統制
③行政争訟制度による統制
④公益通報による統制
⑤懲戒処分による統制
第3部「法的整合性確保の取り組み」では、「コンプライアンス」や「自治体政策法務」という概念が再検討されるとともに、法的整合性確保の取組みに着手した自治体の事例やトップの役割について検討した。
①コンプライアンスに関するトップの責任と役割
②コンプライアンス条例のあり方
③警察との連携による統制
④ADRによる統制
(2)研究会における意見交換・質疑
研究会では、ゲストスピーカーからのヒアリングと意見交換を行っている。ゲストスピーカーからのヒアリング内容については、『法的整合性確保に向けての多面的検討』で紹介している。
(3)現地調査の実施
岡山市総務局行政執行適正化推進課、名古屋市財政局契約部契約監理課、京都市総務局監察室、広島市企画総務局法務課の協力を得て、現地調査を実施した。これらの調査結果については、『法的整合性確保に向けての多面的検討』及び第2期報告書で紹介することとしている。
4.調査研究の体制(法的整合性確保研究会)
座長 | 宇賀 克也 | 東京大学大学院法学政治学研究科教授 |
委員 | 阿部 昌樹 | 大阪市立大学大学院法学研究科教授 |
〃 | 金井 利之 | 東京大学大学院法学政治学研究科教授 |
〃 | 山本 和彦 | 一橋大学大学院法学研究科教授 |
(敬称略、委員は50音順、所属役職等は平成21年1月現在)