都市自治体の総合的な土地利用調整に関する調査研究2007
都市自治体の総合的な土地利用調整に関する調査研究
1.趣旨・目的
市町村合併の推進に当たっては、「広域的な観点からの合理的なまちづくり」が主要なメリットの一つとして挙げられてきた。
たしかに、市町村合併によって、土地利用上の広域的な課題に対する迅速な対応や独自施策の展開ができるようになったことを積極的に評価する見解もある。しかし、他方において、合併市の中には、飛び地など不整形な市域を抱えていたり、内容の大きく異なる土地利用規制が市域内に複数存在したりするところも少なくない。そのため、現状においては「広域的な観点からの合理的なまちづくり」が必ずしも十分に実現されるとは限らないともいえる。
そこで、本研究では、合併後の新市における土地利用行政の現状や課題などについて検討を行った。
2.調査研究の方法
調査研究に当たって、当センターに学識者及び自治体職員からなる「土地利用研究会」(座長 金井利之 東京大学大学院法学政治学研究科教授)を設置し、都市計画制度の問題などについて、研究会での議論により調査研究を進めた。また、市町村合併を行った都市自治体へのアンケート調査および都市計画系土地利用担当者にヒアリング調査を行い、合併後の新市における土地利用行政の現状と課題を調査した。
本調査研究の成果物として、平成20年3月に報告書『都市自治体における土地利用行政の現状と課題 -合併市を素材として-』を発刊した。
3.調査研究の概要・成果
(1)都市自治体における土地利用行政の現状
・土地利用行政の現状と情勢の変化
土地利用に関する法令としては、上位法である土地利用基本法、国土形成計画法、国土利用計画法のほか、都市計画法や農業振興地域の整備に関する法律などの個別規制法が数多く存在し、これらを相互に連関・調整させ、総合的な土地利用秩序を実現するための計画体系が整えられている。
ただし、近年は土地利用行政をめぐる状況が大きく変化してきている。多くの自治体で人口減少・高齢化の進行が見られること、財政状況の変化や市町村合併などで行財政的な全体状況が変化していること、土地利用情勢について規制緩和による郊外型大規模店舗の増加や農業情勢の変化による耕地の縮小といった変化が見られることなどである。
・土地利用行政の手法
都市自治体が土地利用政策を主体的かつ積極的に展開しようとする場合には、「規制緩和手法」と「規制強化手法」がある。これらの土地利用コントロール手法は必ずしも相互に矛盾するものではなく、両者を組み合わせることで適切な土地利用政策の実現が可能となる。規制強化手法は、さらに都市計画法利用ケースと自主条例利用ケースの2類型に分けることができる。
(2)都市計画による土地利用行政
都市計画区域ごとに土地利用規制の内容が異なる場合には、同一の市内において土地利用上の不均衡が生じる可能性がある。また、都市計画区域を指定していない市では、宅地開発のスプロール化や問題のある別荘地開発などが起きやすくなる。
線引きは住民・事業者への影響が大きい制度であることから、線引きを行うか否かは合併市における主要課題の一つである。
さらには、都市計画税の課税が重要課題の一つとして認識されている。合併後の新市は、都市計画税の課税区域を拡大するか、都市計画税を廃止するか、現状維持にとどめるかについて、受益者負担の原則に照らして選択することとなる。
(3)自主的手法による土地利用行政
まちづくり条例は、都市計画法による規制の緩い地域における無秩序な土地利用を抑制する観点から制定される場合が多いことから、非線引き都市計画区域や都市計画区域外の地域を含む市町村で先進的な事例が多く見られる。
(4)土地利用行政の執行体制
市町村合併により土地利用行政に対する新たな需要が発生する可能性があり、それらに対応できる組織が求められる。また、都市計画と農政とが常に関わりを持った総合的な土地利用施策の展開が望まれる。
都道府県との関係においても、今後もさらなる権限移譲が必要であり、都道府県との円滑な協議を進めるとともに、権限を受け入れる体制を整える必要がある。
4.調査研究の体制(土地利用研究会)
座長 | 金井 利之 | 東京大学大学院法学政治学研究科教授 |
委員 | 内海 麻利 | 駒澤大学法学部准教授 |
〃 | 鎌崎 孝善 | 安曇野市都市建設部都市計画課企画員 |
〃 | 長谷川 貴陽史 | 首都大学東京都市教養学部准教授 |
〃 | 本多 幸久 | 浜松市都市計画部土地政策課課長 |
〃 | 村上 暁信 | 東京工業大学院総合理工学研究科講師 |
(敬称略、委員は50音順、所属役職等は2008年3月現在)