新時代の都市税財政に関する調査研究2007
新時代の都市税財政に関する調査研究
1.趣旨・目的
自治体間における財政格差は、今日住民が受け取る行政サービスの格差として目に見える形で現れてきている。限りある自治体財源にあって、公共事業に重点をおく財源配分から、少子高齢社会における行政サービスへと施策の重点が移っていく社会的状況のなかで、自治体における自主的な財源確保が強く求められている。
自治体における財源の多寡が、かつて言われたナショナルミニマムの確保すら難しくする事態は、それぞれの地域で暮らしている住民にとって安心できる生活を脅かすものとして、捉えられることになる。このような課題に対して、格差を是正していく仕組みを考える前提として、どのような格差が生じているのか、ここではすべてを網羅することは出来ないが、いくつかの事例をもとに、実情を把握することとした。
2.調査研究の方法
調査研究を行うため、本年度、当センターに「新時代の都市税財政に関する研究会」(委員長宇田川璋仁 千葉商科大学客員教授)を設置した。研究会では研究者及び研究会委員からご報告をいただき、意見交換・討議を行いながら調査研究を進めた。
本調査研究の成果物として、平成20年3月に報告書こちら『自治体における財政格差の諸相』を発刊した。
3.調査研究の概要・成果
本書は研究会の報告・意見交換内容を取りまとめたもので、6章から構成されている。
第1章は、NPO法人地方自立政策研究所理事長(前・志木市長)・穂坂邦夫氏の『自治体間における財政格差問題』である。格差の実態として都道府県と市町村における格差の特長、現行制度の限界、格差問題を越える深刻な問題として選択的事業に傾斜した地方の行政サービス、遅れる公務の開放、国と都道府県と市町村間の重複的事業や不必要な干渉について述べられた。そして、自ら手がけられた「実務的明確化研究会」において明らかになった、地方における必要な行政サービスと必要な財源の算定について、具体的なデータを示された。
第2章は、慶應義塾大学大学院経済学研究科・宮﨑雅人氏の『日本における地域間格差に関する一考察』である。地域間格差問題についての状況把握としてこれまでの論文、雑誌・新聞記事等の動向、地域間格差概念の整理にもとづき、先行研究を経済格差、公共投資の配分格差、財政力格差の三つの視点からの調査結果を紹介された。そして、財政力格差を一人当たり額で判定する際の問題点として地域内部の格差の隠蔽、規模の効果の介入などを指摘し、絶対的な地域間格差について考察を行う必要性を示唆された。
第3章は、立命館大学政策科学部准教授・森裕之氏の『公共事業補助金における都道府県-市町村関係 -長野県を事例として-』である。直接補助事業、間接補助事業、単独事業についてその仕組みを紹介し、県の補助事業削減や公共事業削減による市町村財政への影響について考察していただいた。そして、個別事業のケースとして、農業生産基盤、農村整備、農地等保全管理などの農業農村整備事業と児童館・児童センターなどの児童厚生施設整備事業について、県の補助動向と市町村に与えた影響を考察していただいた。
第4章は、東洋大学経済学部講師・中澤克佳氏の、『地方自治体における介護サービスの格差について』である。介護サービスの地域間格差をサービス量の格差という視点から捉え、首都圏における介護老人福祉施設の水準と分布、市区町村の定員率の推移を考察していだいた。また、高齢者の地域間移動について、データの構築と推定結果により、前期高齢者と後期高齢者では異動パターンが異なることを示された。そして、高齢者社会増加関数の先行研究、仮説と変数、推定結果を説明したのち、今後の政策的課題と研究課題を論じられた。
第5章は、明治大学政治経済学部教授・星野泉氏の『スウェーデンの自治体財政 -少子・高齢社会における自治体の財政問題-』である。税源配分状況、租税負担と所得税負担、北欧諸国の地方税について、国際比較から見たスウェーデンの状況を考察していただいた。続いて、スウェーデンの地方所得税と付加価値税の紹介、ストックホルムにおける混雑税の実験の状況とヨーテボリにおける地上公共交通システムの現況を説明されたあと、スウェーデンの生活から感じ取った負担の大きな社会での生き方について感想を述べられた。
第6章は、藤沢市政策研究室研究員、慶應義塾大学大学院経済学研究科・田中聡一郎氏の『給付付き税額控除 -イギリスの事例-』である。給付付き税額控除の特徴とイギリスでの政策論議を説明されたあと、税額控除の類型として低所得の勤労世帯や子育て世帯への支援について論じられた。続いて、この制度の経緯、受給要件、控除額について変遷の経緯を含めて説明がなされた。また、単身世帯、ひとり親世帯について制度の変更による再分配的評価が示され、併せて受給実態が紹介され、わが国への導入の政策的意義についても言及された。
4.調査研究の体制(都市税財政研究会)
委員長 | 宇田川 璋仁 | 千葉商科大学客員教授 |
副委員長 | 黒川 和美 | 法政大学経済学部教授 |
〃 | 西野 万里 | 明治大学商学部教授 |
委員 | 青木 宗明 | 神奈川大学経営学部教授 |
〃 | 飯野 靖四 | 慶應義塾大学名誉教授 |
〃 | 井川 博 | 政策研究大学院大学教授 |
〃 | 井堀 利宏 | 東京大学大学院経済学研究科教授 |
〃 | 大西 潤 |
新潟大学経済学部教授 |
〃 | 大村 達弥 | 慶應義塾大学経済学部教授 |
〃 | 加藤 三郎 | 東京大学名誉教授 |
〃 | 工藤 裕子 | 中央大学法学部教授 |
〃 | 高山 憲之 |
一橋大学経済研究所教授 |
〃 | 竹内 一樹 | 長野経済短期大学学長 |
〃 | 田中 一行 | 明海大学総合教育センター客員教授 |
〃 | 沼尾 波子 | 日本大学経済学部准教授 |
〃 | 能勢 邦之 |
米国ベラー大学客員教授(元岩見沢市長) |
〃 | 野呂 昭朗 | 東邦学園大学経営学部教授 |
〃 | 原田 博夫 | 専修大学経済学部教授 |
〃 | 肥後 和夫 | 成蹊大学・明海大学名誉教授 |
〃 | 廣瀬 克哉 |
法政大学法学部教授 |
〃 | 藤田 幸雄 | 自治大学校・早稲田大学政治経済学部講師 |
〃 | 星野 泉 | 明治大学政治経済学部教授 |
〃 | 望月 正光 | 関東学院大学経済学部教授 |
〃 | 横田 信武 |
早稲田大学商学学術院教授 |
〃 | 横山 彰 | 中央大学総合政策学部教授 |
〃 | 吉田 浩 | 東北大学経済学研究科准教授 |
〃 | 久保 信保 | 総務省自治財政局長 |
〃 | 河野 栄 |
総務省自治税務局長 |
〃 | 御園慎一郎 | 総務省大臣官房審議官(財政制度・財務) |
〃 | 高橋 正樹 | 総務省大臣官房審議官(税務) |
〃 | 佐藤 文俊 | 総務省自治財政局財政課長 |
〃 | 滝本 純生 |
総務省自治税務局企画課長 |
専門委員 | 小谷野邦夫 | 横須賀市財政部長 |
〃 | 鹿野 正廣 | 浦安市財務部長 |
〃 | 鈴木 哲夫 | 小田原市総務部長 |
〃 | 曽根 豊 |
高崎市財務部長 |
〃 | 福田 幹雄 | 宇都宮市行政経営部長 |
〃 | 渡辺 巧教 | 横浜市行政運営調整局財政部長 |
(敬称略、委員は50音順、所属役職等は平成20年2月15日現在)
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