2013年度以前の調査・研究

行政効率化を実現するITガバナンスのあり方に関する 調査研究2006

 

行政効率化を実現するITガバナンスのあり方に関する 調査研究

1.趣旨・目的

現在、自治体は厳しい財政状況に直面している。それにも拘らず、福祉、教育、環境問題への対応など、行政へのニーズは増加・多様化している。自治体はこのようなニーズに応えるため、「効率的な行政運営」を目指して行政改革に取り組み、予算や人員という限られた"資源"を、最大限の効果を達成できるように振り向けていかなければならない。「効率的な行政運営」の実現のためのツールとして進歩著しいITに寄せられる期待は大きい。しかしながら、これまでの自治体の情報化については、投資に見合った成果が必ずしも挙がっているとは言い難いとの批判も聞かれる。そのため、情報化投資に対する庁内の視線も厳しいものになりつつある。 
そこで、本調査研究では効率的な行政運営を目指して様々な取り組みを行っている10自治体における「行政情報化の現状」についてヒアリングを実施し、その結果を取りまとめるともに、行政効率化という成果に結びつくためのITガバナンスのあり方について検討を行った。

2.調査研究の方法

本調査研究では、戦略的に「行政情報化」を推進し、業務量削減、調達コスト削減などの具体的な業務効率化の成果を挙げている10自治体を対象にヒアリング調査を実施した。ヒアリングを通じて自治体における行政情報化の現状を把握するとともに、行政効率化という成果に結びつくITガバナンスのあり方について検討を行った。本調査研究の成果物として、平成19年3月に報告書『成果に結びつくITガバナンス~自治体現場の取り組みと課題~』を発刊した。報告書には調査研究の内容に加えて、理論的・学究的な観点から調査研究を進めるため、有識者のご寄稿を賜った。また、本調査研究アドバイザーとして法政大学廣瀬克哉教授にご就任いただいた。

3.調査研究の概要・成果

3.調査研究の概要・成果 
(1)第1部 「自治体におけるITガバナンスの要点」

第1章は「自治体におけるITガバナンスの展開と現状」をテーマとして、日本の自治体における情報化の展開を踏まえたうえで、喫緊の課題となっている自治体組織全体にとっての情報化の成果を確保するための課題とその解決の手法について、本調査研究のアドバイザーである廣瀬克哉教授に論じていただいている。

第2章は「CIOに求められる機能とその役割」をテーマとして、近年、自治体においてもCIOが注目を集めてきているが、CIOについてのコンセンサスが十分に得られているとは言い難い現状を踏まえ、「CIOとは何か」というCIOに関する基本的な疑問に対する一定の回答を示したうえで、CIOに期待される機能と役割について(株)NTTデータ経営研究所の三谷慶一郎氏に論じていただいている。

(2)第2部 「自治体におけるITガバナンスの事例紹介」 
第2部では「全体最適化」の事例として佐世保市、各務原市、「業務改革」の事例として市川市、横須賀市、札幌市、「調達の工夫」の事例として西宮市、佐賀市、浦安市、「ガバナンスの現状」の事例として砂川市、宗像市の10市におけるヒアリング調査結果を各章ごとに紹介している。

第1章 佐世保市では情報システムの「投資対効果の明確化」と「調達・運用コストの適正化」を目指して、平成17年に「情報システム最適化指針」を策定した。この指針では、情報システムを「計画段階」「調達段階」「運用段階」に分けて、それぞれの段階における場面で必要となる考え方や具体的な手法を定めている。

第2章 各務原市では、情報システム再構築、運用・管理、ヘルプデスク、コンサルティングなどの情報化関連業務を幅広くアウトソーサに委託している。より質の高い行政サービスを実現させるため、情報関連業務を「包括的に」アウトソーシングすることで組織の「全体最適化」を図っている。

第3章 市川市では精緻な分析であるがゆえに分析作業に膨大な時間やコストがかかるというABC分析(管理手法)をアレンジし、業務改善に向けた柔軟性が高い「職員の活動」に絞り込んで分析を行っている。

第4章 横須賀市の「レガシーシステム再構築事業」では、行政事務の再構築、アプリケーション整備方法の柔軟化、ITコスト削減等を目的とし、住民基本台帳、税などの基幹情報システム体系をメインフレーム方式から、分散処理方式に再構築している。また、横須賀市では、入札制度改革(契約事務の透明化、入札金額の適正化)が進み、入札した件数が増大したため、契約事務の効率化や入札書の原本保証のために「電子入札システム」を活用している。

第5章 札幌市は、平成15年4月に日本初の市政総合コールセンターである「札幌市コールセンター」を設置した。コールセンターを「市民サービスの向上」「市民ニーズの把握・活用」「情報格差対策」「職員によるノウハウの共有」を目的として導入している。

第6章 西宮市では行政の現場で活用するシステムについては、行政実務に精通した「行政のプロ」である自治体職員による自己開発が最良の選択であると判断し、ほとんどのシステムについて「少数精鋭主義」「現場主義」による自己開発を行っている。

第7章 佐賀市では基幹行政システムの再構築により、情報システムの「ダウンサイジング」「オープンシステム化」を実現し、情報システム調達コストの削減や地元企業の参入機会の拡大などの成果を挙げている。

第8章 浦安市では、庁内の個別業務の効率化を図るためのGISを、インターネットを活用した市民との意見交換などのツールとしてのWebGIS「JAM」へと進化させ、共同利用型アプリケーションとしてLGWANプログラムライブラリに登録されている。

第9章 砂川市では「データベースシステム」を活用し各種のデータベースを作成している。その中の「住民ニーズデータベース」は各職場に入る住民からの意見・要望・苦情等をデータベース化し、「市民の声」を情報共有し、施策や事業に反映させることを目指している。

第10章 宗像市は人口1,000人当たりの職員数は4.68人であり、全国の市町村の平均8.12人と比較しても少ない。スリムな行政運営の実現のためにITの役割も大きく、「推進体制の整備」と職員がITを活用するための「情報基盤の整備」を重視しているのが特色である。

調査研究アドバイザー・報告書監修
法政大学法学部教授 廣瀬 克哉

(敬称略、所属役職等は2007年1月現在)

 

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