新時代の都市税財政に関する調査研究2005
新時代の都市税財政に関する調査研究
1.趣旨・目的
平成16・17・18年度の3か年にわたった「三位一体の改革」は、国庫補助負担金改革約4.7兆円の削減など、所得税から個人住民税への税源移譲約3兆円、地方交付税改革約5.1兆円の抑制で決着を見た。基幹税による税源移譲は達成できたものの、補助金改革では、国の関与が残っていたままでの補助率引下げも組み入れられた。
今後、自治体としては、更なる地方分権を求めていくこととなるが、国、地方を通じた財政再建を念頭に置いた、地方財政の総額の抑制、地方交付税の一層の削減が求められることは必至である。
また、都市自治体は限られた財源の下で、ますます多様・複雑化する住民ニーズに応えていかなければならず、自己決定、自己責任による行財政運営をどのように確保していくかが大きな課題である。
2.調査研究の方法
上記の観点から、調査研究を行うため、本年度、当センター内に「新時代の都市税財政に関する研究会」(委員長:宇田川璋仁 千葉商科大学客員教授)を設置し、研究者、自治体の首長および研究会委員からの報告をもとに、意見交換・討議を行うかたちで研究を進めた。
わが国における地方財政に関する制度と課題、先行的な都市自治体の取組、諸外国の様々な地方財政制度に係る事例などを取り上げ、成果物として、平成18年3月に『分権時代の地方財政』を発刊した。
3.調査研究の概要
(1)分権時代の地方財政
第1章は、横浜国立大学大学院国際科学研究科教授・金澤史男氏の分権時代の地方財政制度-三位一体改革の経緯を踏まえて-である。三位一体改革の構図、経緯、論点および日本の財政の現状分析に基づき、財政再建の考え方として、法人税優遇の見直し、社会保険料の引き上げ、個人所得課税の累進化といった具体的方策を示唆した。
第2章は、一橋大学経済学研究科助教授・佐藤主光氏の地方分権と交付税の課題:財政再建の観点からである。地方の自立と地方の責任を促すのが地方分権の本来の趣旨であるが、現実の地方分権改革は、分権化社会の全体像が見えないまま、数値目標の達成が優先されている。真の地方分権のため、地域住民の財政責任が必要であることを考察した。
第3章は、高知大学人文学部教授・平岡和久氏の市町村における一般財源の機能分析についてである。地方財政計画と決算の乖離問題を中心に5つの自治体を例に、新規投資から維持管理へ、ハードからソフトへの基準財政需要額の一体的な改革の必要性と自治体一般財源と単独事業の保障を位置づけた交付税改革の必要性を指摘した。
第4章は、総務省自治財政局財政課長・佐藤文俊氏の経済財政運営と構造改革に関する基本方針2005についてである。三位一体改革の全体像として国庫補助負担金改革、税源委譲および地方交付税改革と課題を説明し、今後の方向として歳出・歳入一体改革の選択肢や改革工程の組立に当り、中期地方財政ビジョンと一体的に作る必然性がある事を報告した。
(2)わが国における都市自治体の実情
第5章は、秋田市長・佐竹敬久氏の分権時代の都市経営と財政運営-秋田市の都市内地域分権と市民協働など-についてである。市の財政状況は扶助費が毎年増加する一方、投資的経費は減っている。この様な中で、各種の市の施設を建替時期に合わせて複合化し、維持管理から運営まで地域に任せる方法によって、経費削減を図る方向を示した。
第6章は、市川市長・千葉光行氏の分権時代の都市経営と財政運営-市川市の市民活動団体支援制度など-についてである。市の地域特性、財政運営、電子自治体への取組および市民ニーズの多様化に対し、行政ではできない部分を市民活動団体が担う高齢者向け地域ケア、子育て支援ファミリーサポートを例に市民活動団体支援について説明を行った。
(3)諸外国における地方財政制度
第7章は、神奈川大学経営学部教授・青木宗明氏のフランスの地方分権・税財政からわが国の経済・財政思想を考えるである。フランスでは政治システムにおける地方参加の定着と行政システムにおける中央の決定に対する地方の参加が制度化され、国と地方の関係の基盤となっている。日本においても地方の参加の制度化が必要であることを指摘した。
第8章は、法政大学経済学部教授・黒川和美氏の地方分権型社会とStrategic Public Financeについてである。欧米では、税で公共サービス供給を行う自治体の経営は終わり、経済システムからものを見る方向に変わってきた。自治体は戦略として金融機関から資金を調達し、地域経済ポテンシャルを高める戦略的投資が必要であることを示唆した。
第9章は、慶應義塾大学経済学部教授・飯野靖四氏のスウェーデンにおける地方財政についてである。同国の中域自治体であるランスティングと基礎的自治体のコミューンについて歳出、歳入のそれぞれの構成内容と自治体間の状況をもとに、財政力格差に対する財政調整の種類とこれまでの調整施策の流れおよび最近の改革内容について考察した。
第10章は、日本大学経済学部助教授・沼尾波子氏の米国ニューヨーク州における政府間財政関係と都市財政の動向についてである。財源手当なき事務執行命令問題、ニューヨーク州の政府間財政関係に続いて、NY州ホワイトプレーン市およびイサカ市の現地調査から米国の都市自治体は基本的には自己決定・自己責任の財政運営を行っていると報告した。
4.調査研究の体制(都市税財政研究会)
委員長 | 宇田川 璋仁 | 千葉商科大学客員教授 |
副委員長 | 黒川 和美 | 法政大学経済学部教授 |
〃 | 西野 万里 |
明治大学商学部教授 |
委 員 | 青木 宗明 | 神奈川大学経営学部教授 |
〃 | 飯野 靖四 | 慶應義塾大学経済学部教授 |
〃 | 井堀 利宏 | 政策研究大学院大学教授 |
〃 | 井川 博 | 政策研究大学院大学教授 |
〃 | 大西 潤 | 新潟大学経済学部教授 |
〃 | 大村 達弥 | 慶應義塾大学経済学部教授 |
〃 | 加藤 三郎 |
東京大学名誉教授 |
〃 | 工藤 裕子 | 中央大学法学部教授 |
〃 | 高山 憲之 | 一橋大学経済研究所教授 |
〃 | 竹内 一樹 | 長野経済短期大学学長 |
〃 | 田中 一行 | 明海大学不動産学部教授 |
〃 | 沼尾 波子 | 日本大学経済学部助教授 |
〃 | 能勢 邦之 | 米国ベラー大学客員教授(元岩見沢市長) |
〃 | 野呂 昭朗 | 東邦学園大学経営学部教授 |
〃 | 原田 博夫 |
専修大学経済学部教授 |
〃 | 肥後 和夫 | 成蹊大学・明海大学名誉教授 |
〃 | 廣瀬 克哉 |
法政大学法学部教授 |
〃 | 深谷 昌弘 | 慶應義塾大学総合政策学部教授 |
〃 | 藤田 幸雄 | 自治大学校・早稲田大学政治経済学部講師 |
〃 | 星野 泉 | 明治大学政治経済学部教授 |
〃 | 望月 正光 | 関東学院大学経済学部教授 |
〃 | 横田 信武 | 早稲田大学商学学術院教授 |
〃 | 横山 彰 | 中央大学総合政策学部教授 |
〃 | 吉田 浩 | 東北大学経済学研究科助教授 |
〃 | 瀧野 欣彌 | 総務省自治財政局長 |
〃 | 小室 裕一 | 総務省自治税務局長 |
〃 | 岡本 保 | 総務省大臣官房審議官(財政制度) |
〃 | 岡崎 浩巳 | 総務省大臣官房審議官(税務) |
〃 | 佐藤 文俊 | 総務省自治財政局財政課長 |
〃 | 株丹 達也 | 総務省自治税務局企画課長 |
専門委員 | 御給 健治 | さいたま市財政局財政部長 |
〃 | 渡辺 巧教 | 横浜市財政局財政部長 |
〃 | 原島 一 | 八王子市財務部長 |
〃 | 小谷野邦夫 | 横須賀市財政部長 |
〃 | 宮崎 清 | 小田原市管理部長 |
(敬称略、委員は50音順、2005年10月現在)
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